曲は完成したのに市販の音源みたいに聴こえない人へ。iZotope Ozoneでマスタリングを始めてみる

自分の曲をひととおりミックスし終えて、書き出したファイルを再生してみた瞬間。



好きなアーティストの曲と聴き比べてみて、なんだか音が薄っぺらい



音圧が全然足りない、迫力が出ない……
そんな経験をしたことはないでしょうか。
「ミックスまではなんとか終わった。でも、マスタリングって具体的に何をすればいいのか分からない」「とりあえずEQとリミッターを軽くかけてみたけど、市販の曲と並べるとやっぱり見劣りする」——DTMを始めたばかりの人の多くが、曲作りの最後の関門であるマスタリングでつまずきます。マスタリングの専門書やネットの解説記事を読んでも、EQ、マキシマイザー、コンプレッサー、イメージャーと専門用語が次々に出てきて、「結局どれをどの順番で、どのくらいかければいいの?」と迷子になってしまう人も多いはずです。
結論から言うと、最初の一歩としてはそれらを全部バラバラに揃えて勉強する必要はありません。今回紹介する「iZotope Ozone(アイゾトープ・オゾン)」というプラグインは、マスタリングに必要な処理をひとつにまとめた、いわばマスタリング専用の機材ラックをまるごと1個に凝縮したようなプラグインです。この記事では、マスタリング初心者が抱きがちな「何をすればいいか分からない」という悩みから出発して、Ozoneで何ができるのかを、ギター経験者向けの例えを交えながらかみ砕いて解説していきます。
結論:Ozoneがあれば「マスタリングで何をすればいいか」問題はひとまず解決する
先に結論を言ってしまうと、マスタリングで何から手をつければいいか分からないという悩みは、Ozoneを1本マスターバスに挿すことでほぼ解決します。理由はシンプルで、Ozoneの中には、マスタリングで一般的に使われる処理——音のバランスを整えるEQ、音量差をならすダイナミクス処理、全体の音圧を上げるマキシマイザー、左右の広がりを調整するイメージャーなど——が、あらかじめ適切な順番で1本のプラグインの中に収録されているからです。
さらにOzoneには「Assistant(アシスタント)」という自動解析機能があり、曲を聴かせるだけでOzoneがおすすめの設定を組み立ててくれます。つまり、専門知識がまだ浅い段階でも、「とりあえず何かそれっぽい音圧と迫力のある仕上がり」まで、かなり短時間でたどり着けるようになっているわけです。もちろんAssistant任せがゴールというわけではありませんが、「何をどう触ればいいか分からない」という最初のハードルを飛び越えるには十分すぎるほど頼りになる存在です。
なお、同じiZotope社が出している代表的なオールインワンプラグインとして、以前guitar-type.comでは歌もののミックスに使うiZotope Nectarを紹介した記事を公開しています。Nectarが「ボーカル1トラックをミックスする」ためのオールインワンプラグインだとすると、Ozoneは「ミックスが終わった曲全体を最後に仕上げる」=マスタリング専用のオールインワンプラグインです。似たコンセプトの姉妹プラグインですが、担当する工程がまったく違うので、この違いは最初に押さえておいてください。
そもそもマスタリングって何をする工程なの?
Ozoneの中身に入る前に、「マスタリング」という工程そのものを整理しておきましょう。
ギターやバンドのレコーディングで例えるなら、ミックスは「ギター、ベース、ドラム、ボーカル、それぞれの楽器の音量やトーンを個別に調整して、バンド全体のバランスを整える作業」にあたります。それに対してマスタリングは、そうやって完成した「曲全体」を1つのかたまりとして扱い、音圧・音圧感・左右のバランス・全体の音の明るさなどを最終調整する工程です。ライブハウスで例えるなら、各パートの音作りがミックスだとすれば、マスタリングはPA卓の前に立つ音響エンジニアが、会場全体に出す最終的な音のバランスと音量を整える作業に近いイメージです。個別の楽器を触るのではなく、すでに1本にまとまった曲全体に対して処理をかける、という点がミックスとの大きな違いです。
この「曲全体に対してかける」という前提があるからこそ、マスタリングで使うプラグインはミックス用のプラグインとは少し性格が異なります。ボーカルやギターの1トラックだけに強くかけるような処理ではなく、曲全体のバランスを崩さない、繊細で控えめな処理を積み重ねていくのがマスタリングの基本です。Ozoneはこの「曲全体に対して繊細な処理を積み重ねる」という考え方に沿って設計されたプラグインです。
Ozoneとは何か:3つのバージョン構成
iZotope Ozoneには、Elements・Standard・Advancedという3つのバージョンが用意されています。ギターのエフェクターペダルで例えるなら、機能を絞った入門用コンパクトエフェクター(Elements)、実用的な機能が一通り揃った中堅モデル(Standard)、あらゆるパラメーターに細かくアクセスできるプロ仕様のマルチエフェクター(Advanced)、というグレード分けをイメージすると分かりやすいと思います。
- Elements:初心者向け。AIによる自動解析(Assistant)が主体で、細かいパラメーターへのアクセスは制限されている
- Standard:中級者向け。Assistantに加えて、各モジュールの内部パラメーターも自分で調整できる
- Advanced:プロ向け。すべてのモジュールとパラメーターにフルアクセスでき、より高度なマスタリングワークフローに対応する
最初にOzoneに触れるなら、Elementsで基本の流れをつかんでから、物足りなさを感じたタイミングでStandard以上にステップアップする、という進め方がおすすめです。ギターを始めたばかりの人が、まずは機能の少ないコンパクトエフェクター1個から操作に慣れていくのと同じ考え方です。
Assistant機能の使い方
Ozoneの目玉機能が、この「Assistant」です。曲を聴かせるだけで、Ozoneが自動でおすすめの設定を提案してくれます。基本的な使い方の流れは、次のとおりです。
1. マスターバス(曲全体の音が最後に通るトラック)にOzoneをインサートする 2. プラグイン画面の「Start Assistant」をクリックする 3. 曲を再生し、Ozoneに音を聴かせて解析させる 4. 解析が終わると、自動で組み立てられた設定が反映された状態になる
Assistantには大きく分けて2つのモードがあります。One-Clickは、ジャンルなどの指定をせずに全自動でOzoneに設定を組み立てさせるモードです。Customは、曲のジャンルを指定したり、使用するモジュールを選んだりしたうえで解析させるモードで、より狙った方向性の提案を受け取りたいときに使います。
これはギターで言うなら、アンプシミュレーターの「オートセッティング機能」に近い感覚です。ジャンルやピックアップの出力を選ぶと、それっぽいアンプ設定を自動で組み立ててくれるあの機能と同じで、Ozoneも曲を聴かせるだけでマスタリングの出発点を自動的に用意してくれます。「何を触ればいいか分からない」状態から抜け出すための、非常に頼りになるスタート地点になってくれるはずです。
Gain Match機能を必ず有効にしておく
Assistantを実行したあと、Ozoneをオン・オフしながら「処理前後でどう変わったか」を聴き比べたくなると思いますが、ここで見落としやすいのがGain Match(ゲインマッチ)という機能です。
Gain Matchを有効にしておくと、Ozoneで処理した後の信号の音量を、Ozoneに入ってくる前の信号の音量に揃えて聴き比べさせてくれます。なぜこれが重要かというと、人間の耳には「単純に音量が大きいだけの音を、良い音だと錯覚してしまう」という性質があるからです。Gain Matchを使わずに素の状態でオン・オフを切り替えると、Ozoneをかけた後の音は単に音量が大きくなっているだけなのに、「迫力が出た、良くなった」と勘違いしてしまうことがあります。バイパス比較をするときは、必ずGain Matchを有効にした状態で判断するようにしてください。
Ozoneに入っているモジュールを、ひとつずつ教えてほしい
ここからは、Ozoneの処理チェーンに並んでいる主なモジュールを、ギターの機材に例えながら順番に紹介していきます。Assistantが自動で組み立てた設定も、中身はこれらのモジュールの組み合わせでできています。「何が起きているのか」を知っておくと、後から自分の手で微調整するときに迷わなくなります。
EQ(イコライザー) 特定の周波数帯を持ち上げたり削ったりする、曲全体に対するマスターアンプのトーンノブのようなモジュールです。曲全体がこもって聴こえるなら低〜中域を整理し、抜けが悪いなら高域をわずかに持ち上げる、というように曲全体の明るさ・こもり具合を最終調整します。ミックス段階のEQと違って、1つの楽器だけを狙い撃ちするのではなく、曲全体のバランスを崩さない範囲でごく控えめにかけるのがポイントです。
Dynamics(ダイナミクス、マルチバンドコンプレッサー) 音量の大小差を、帯域ごとに分けてならしてくれるモジュールです。ギターのコンプレッサーペダルが、強く弾いた音も弱く弾いた音も聴きやすい音量にならしてくれるのと似た役割を、低域・中域・高域それぞれに対して個別にかけられるとイメージしてください。低域だけ暴れている、高域だけ耳に刺さる、といった帯域ごとのクセを整えるのに向いています。
Maximizer(マキシマイザー) 曲全体の音圧を上げるための、リミッターの発展形にあたるモジュールです。ギターアンプで言うと、音量を上げすぎると歪んでしまうところを、歪ませずに天井いっぱいまで音量を持ち上げてくれるリミッターペダルのようなものだとイメージすると分かりやすいです。市販の曲のような音圧・迫力は、主にこのMaximizerの働きによって作られています。ただし、かけすぎると音が潰れて不自然になるため、Assistantが提案した設定を出発点にして、少しずつ好みの強さに近づけていくのが安全です。
Imager(イメージャー) 曲の左右の広がり(ステレオ感)を調整するモジュールです。ステレオコーラスやワイデナー系のペダルが、単音のギターの音を横に広げてくれる感覚に近いモジュールで、低域は中央にまとめて安定させつつ、高域は左右に広げて開放感を出す、といった帯域ごとの調整もできます。
Stabilizer(スタビライザー) 曲全体の周波数バランスを、時間の経過とともに自動で安定させてくれるモジュールです。イントロは低域が少なめでサビになると急に低域が増える、といった曲中のバランスのブレを、リアルタイムで穏やかに整えてくれます。ギターで言うなら、演奏中に音量やトーンが安定しないアンプに対して、自動でレベルを追従してくれるコンプレッサーが常時かかっているようなイメージです。
Bass Control(ベースコントロール) 低域のトランジェント(音の立ち上がりの鋭さ)を、専門に整形するモジュールです。ここで登場するのがCrest Factor(クレストファクター)という指標で、ピーク値を平均値で割った数値のことを指します。ドラムやベースの「鋭さ」を示す数値で、これが高すぎるとMaximizerで音圧を上げたときに低域だけ不自然に変化してしまうことがあります。Bass ControlのPunchパラメーターで低域の鋭さを強調・抑制し、Balanceパラメーターで低域全体の音量を調整することで、ドラムの迫力を損なわずに音圧を最大化しやすくなります。Crest Factorの数値は、後述するTonal Balance Controlのメーターで視覚的に確認できます。
Tonal Balance Control(トーナルバランスコントロール) 自分の曲の周波数バランスが、一般的な市販曲の傾向と比べてどうなっているかを、視覚的に確認できる分析ツールです。低域が出すぎていないか、高域が足りていないかを、グラフ上でひと目で把握できます。ギターのチューナーが「正しい音程からどれだけズレているか」を目で確認させてくれるのと同じように、Tonal Balance Controlは「一般的なバランスからどれだけズレているか」を目で確認させてくれる存在だと考えてください。耳の感覚だけに頼らず、こうした視覚的な情報と併用することで、判断のブレを減らすことができます。
マスタリングでもサチュレーションが活躍する
Ozoneのモジュールの中には、Vintage系のコンプレッサーやEQ、Exciterといった、音を意図的に少しだけ歪ませて質感を加えるタイプの処理も含まれています。こうした「歪みで音に質感を足す」という考え方は、DTMの世界ではサチュレーションと呼ばれています。
サチュレーションについては、以前guitar-type.comでサチュレーションの仕組みをギターの歪みで例えて解説した記事を公開しています。ギターの歪みが「音を潰すことで倍音を足し、太さや存在感を出す」処理であるように、マスタリングにおけるサチュレーションも、曲全体にごくうっすらと歪みを足すことで、デジタルな音源にアナログ機材を通したような温かみや馬力を加える役割を果たします。EQやMaximizerだけでは出しにくい「音の太さ」を仕上げたいときは、Ozone内のサチュレーション系モジュールを軽くかけてみるのも一つの手です。ただし、マスタリングでのサチュレーションはあくまで隠し味です。ギターのオーバードライブを全開にするようなかけ方ではなく、「かかっているかどうか分からないくらい」の薄さから試すのが失敗しないコツです。
マスタリングで新しくリバーブを足す必要はない
初心者がマスタリングの段階でやってしまいがちな失敗の一つが、「もっと広がりや余韻が欲しいから」とマスターバスに新しくリバーブを足してしまうことです。基本的には、マスタリングの段階で新たにリバーブをかける必要はありません。曲の空間的な演出は、ミックスの段階で各トラックにかけたリバーブによって、すでに作り込まれているはずだからです。
リバーブの種類や使い分けについては、以前guitar-type.comでリバーブの種類をギターアンプのキャラの違いで例えて解説した記事を公開しているので、ミックス段階での空間作りに不安がある人はあわせて読んでみてください。マスタリングで物足りなさを感じたときは、まず「本当にマスタリングの問題なのか、それともミックスの時点でリバーブやディレイの作り込みが足りていないのか」を切り分けて考えると、原因を見つけやすくなります。
Nectarとの役割の違いをもう一度整理しておく
記事の冒頭でも触れましたが、同じiZotope社のオールインワンプラグインであるNectarとOzoneは、名前も見た目のコンセプトも似ているため混同しやすいので、ここでもう一度整理しておきます。
- Nectar:ボーカル1トラックを対象にした、ミックス用のオールインワンプラグイン。ゲート、EQ、ディエッサー、コンプレッサー、リバーブなどのモジュールで、歌をどう聴かせるかを作り込む
- Ozone:ミックスが終わった曲全体を対象にした、マスタリング用のオールインワンプラグイン。EQ、Dynamics、Maximizer、Imagerなどのモジュールで、曲全体の音圧感とバランスを最終調整する
ギターで例えるなら、Nectarは「ボーカルという1本のギターにかけるマルチエフェクター」、Ozoneは「バンド全体の音をまとめて調整する、PA卓のマスターセクション」のような関係です。どちらもiZotope社らしい「オールインワンで分かりやすく」という設計思想は共通していますが、対象にする範囲がまったく違う点を押さえておくと、どちらを使うべき場面なのか迷わなくなります。
Ozoneの機能や最新バージョンの詳細については、当サイトのiZotope Ozone解説記事を参照してください。
まとめ
曲は完成したのに市販の音源みたいに聴こえない、マスタリングで何をすればいいか分からない、という初心者の悩みに対する答えをまとめます。
- マスタリングは、ミックスが終わった曲全体に対して、音圧・音圧感・左右のバランスなどを最終調整する工程
- iZotope Ozoneは、マスタリングに必要な処理をひとまとめにしたオールインワンプラグイン
- EQ・Dynamics・Maximizer・Imager・Stabilizer・Bass Control・Tonal Balance Controlなどのモジュールが、あらかじめマスタリングに適した形で用意されている
- Assistant機能を使えば、曲を聴かせるだけで自動的におすすめ設定を提案してもらえる
- バイパス比較をするときは、音量差による錯覚を防ぐためにGain Matchを必ず有効にする
- サチュレーションは隠し味として、リバーブは基本的にミックス段階で作り込んでおく
同じiZotope社のNectarがボーカルミックスの入り口になってくれるように、Ozoneはマスタリングの入り口になってくれるプラグインです。まずはAssistant任せの設定からスタートして、気になる部分だけを各モジュールで少しずつ調整していく——そうやって触っているうちに、自分の曲が市販の曲と並べても見劣りしない音圧と迫力を持つようになっていくはずです。







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