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シティポップって結局何なの?世界中のZ世代を虜にした「プラスティック・ラブ」現象と名盤を解説

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2017年7月、YouTubeにひとつの奇妙な動画が投稿されました。「Plastic Lover」というアカウントが上げた、8分間にわたるリミックス動画。素材は竹内まりやが1984年に発表した「プラスティック・ラブ」でした。

当時、この曲を知る人は日本でもそう多くありませんでした。シングルとしてのオリコン最高順位は86位、売上はおよそ1万枚というささやかな実績しか残していない曲だったからです。

ところが2018年の春先から、この動画がYouTubeの「次のおすすめ」欄に次々と現れるようになります。なぜアルゴリズムがこの一本を選んだのか、正確な理由は今も分かっていません。ただ結果として、シンセベースのイントロに続いて英語字幕付きで流れる”Watashi wa Plastic Love”のフレーズは、わずか2年足らずで2,500万回以上再生される動画に育ち、世界中のZ世代のプレイリストへと静かに侵入していきました。

彼らはきっとこう思ったはずです。「これ、いつの曲?」と。答えは1984年。しかも「新発見のアーティスト」ではなく、当の日本ではとうに忘れられかけていた、バブル前夜の空気をそのまま閉じ込めた音楽でした。この一曲をきっかけに、海外のリスナーたちは次々と「シティポップ」という言葉にたどり着くことになります。

目次

シティポップはどうやって生まれたのか

シティポップという言葉自体、当時から明確な定義があったわけではありません。渦中にいたミュージシャンたちも「自分たちはシティポップをやっている」という自覚はほとんどなかったと言われています。後から音楽メディアやリスナーが、ある時期の空気感を共有する楽曲群をまとめてそう呼ぶようになった、いわば「後付けのジャンル名」に近い存在です。

とはいえ、起点としてよく語られるのが1975年、シュガー・ベイブが発表したアルバム『SONGS』です。山下達郎と大貫妙子を擁したこのバンドは大瀧詠一がプロデュースを手がけ、アメリカのポップスやソウルの語法を、東京の空気感に落とし込むような音作りを見せました。ここから山下達郎や大瀧詠一がそれぞれソロ活動へと進み、1970年代後半から80年代にかけて、日本の高度経済成長からバブル期にかけての「豊かさ」を音楽に反映させていくことになります。

背景にあったのは、日本経済の右肩上がりの成長と、それに伴う都市生活者の増加でした。車を持ち、海辺へドライブに出かけ、洗練されたオーディオセットで音楽を楽しむ——そんな新しい都会的なライフスタイルを送る若者たちに向けて、彼らの生活そのものを描写するような音楽が求められていたのです。歌詞には湾岸の夜景やサーフィン、ドライブ、リゾート地の情景が頻出し、まさに「都市生活のBGM」として機能していました。

サウンド面での大きな特徴は、アメリカのAOR(Adult Oriented Rock)やソウル、フュージョンからの強い影響です。当時の日本のミュージシャンたちは、スティーリー・ダンやボズ・スキャッグスに代表されるAORの洗練されたコード感覚、ソウルミュージックのグルーヴ、フュージョンの高度な演奏技術を貪欲に吸収し、そこへ日本語詞を乗せていきました。さらにレコーディングには当時のトップクラスのスタジオミュージシャンたちが起用され、アレンジ・演奏・録音のすべてにおいて非常にハイクオリティな作品が量産されていったことも見逃せないポイントです。

サウンドの特徴——なぜこんなに洗練されて聴こえるのか

  • セブンス・テンションを多用したコード進行:ジャズやフュージョン譲りの複雑なコードワークが土台にあり、いわゆる2-5-1のような進行に7th・9th・13thといったテンションノートを重ねることで、独特の浮遊感と洒落た響きを生み出しています。単純な3コードのポップスとは一線を画す、聴くほどに発見がある和声感覚が持ち味です。
  • フュージョン仕込みのリズム隊:ベースは単調にルートを刻むのではなく、経過音を挟みながら動き回るような旋律的なラインを弾き、ドラムはタイトでありながらどこかハネるようなグルーヴを刻みます。当時のスタジオミュージシャンの多くがジャズ・フュージョン出身だったことと無関係ではありません。
  • 都会的で乾いた歌詞世界:恋愛の情景描写であっても、湿っぽくベタベタしない、どこか距離感のあるクールな言葉選びが多いのも特徴です。ドライブ、リゾート、深夜のオフィス街、空港——舞台となる場所自体が「都会」を象徴する記号として機能しています。
  • レコーディングのクオリティの高さ:当時最先端のスタジオ機材を使い、緻密に作り込まれたアレンジと分厚いコーラスワークが折り重なった、いわゆる「作り込まれた音」が基本です。海外のリスナーが「なぜこんなに音が良いんだ」と驚くのは、このレコーディング水準の高さも大きな理由のひとつだと言われています。

聴いておきたいシティポップの名盤4選

山下達郎『FOR YOU』(1982)

「シティポップの教科書」と呼ばれることも多い一枚です。冒頭を飾る「SPARKLE」からして、爽やかなギターカッティングと分厚いコーラスワークが疾走感を生み出し、アルバム全体を通してサマーリゾートのようなきらめきに満ちています。山下達郎自身が全曲の作詞作曲・アレンジ・プロデュースを手がけており、彼のポップセンスが最も分かりやすく結実した作品のひとつです。イラストレーター鈴木英人が手がけた、西海岸の電器店の前に本人を立たせたジャケットも印象的で、音楽と同じくらいビジュアルの記憶に残る一枚です。

竹内まりや『VARIETY』(1984)

冒頭で紹介した「プラスティック・ラブ」を収録したアルバムです。夫である山下達郎がプロデュースを手がけ、全曲を竹内まりや自身が作詞作曲するという布陣。「プラスティック・ラブ」のほかにも「もう一度」「本気でオンリーユー」など粒ぞろいの楽曲が並び、夫婦タッグならではの息の合ったポップスが詰まった一枚です。

大瀧詠一『A LONG VACATION』(1981)

シュガー・ベイブ解散後、大瀧詠一がソロで放った金字塔です。松本隆の作詞、大瀧詠一自身の作曲・アレンジによる本作は、50〜60年代アメリカンオールディーズへの愛情とシティポップ的な洗練を同居させた作品で、100万枚を超えるセールスを記録しました。「君は天然色」に代表される突き抜けるようなポップさは、40年以上経った今も色褪せません。永井博が手がけたジャケットイラスト——ヤシの木とプールサイド、パステルカラーの空——も本作とセットで語られることが多く、後年「シティポップ的ビジュアル」の代名詞にもなっていきました。

杏里『Timely!!』(1983)

角松敏生がプロデュースを手がけた、通称「角松三部作」の第2弾です。TVアニメ『キャッツ♥アイ』の主題歌としても知られる「CAT’S EYE」や、「悲しみがとまらない」を収録しています。都会的でありながらどこかファンキーなグルーヴを軸にした楽曲群は、杏里のハスキーな歌声と絶妙にマッチし、シティポップの中でもダンサブルな側面を体現した作品です。

海外での再評価——シティポップはなぜ世界に届いたのか

「プラスティック・ラブ」の一件は、決して単発の現象ではありませんでした。同じ頃、既存の音楽をスクリューやサンプリングで加工するインターネット発祥のムーブメント「ヴェイパーウェイヴ」の中から、シティポップの楽曲をチョップ&サンプリングして四つ打ちのビートに乗せ直す「フューチャーファンク」というジャンルが派生していきます。日本のアニメ映像とセットでYouTubeに投稿されたそれらの動画は、シティポップというジャンルそのものへの興味を海外のリスナーに植え付ける役割を果たしました。Open Cultureの特集記事でも触れられている通り、YouTubeのレコメンドアルゴリズムという「偶然」が、忘れられかけていた日本のポップスを再び世界の耳に届けたことは間違いありません。

面白いのは、音楽だけでなくジャケットのビジュアルまでセットで再評価された点です。永井博や鈴木英人が描いたヤシの木・プールサイド・パステルカラーの都会の風景は、SNS上で「レトロフューチャー」な質感として親しまれ、フューチャーファンクの動画のサムネイルやループアニメーションにも頻繁に引用されるようになりました。音とビジュアルが一体になって拡散したことも、シティポップというジャンル名そのものが海外で定着した理由のひとつだと言えそうです。

この流れを牽引した人物のひとりが、韓国出身のプロデューサー・Night Tempoです。彼はシティポップや昭和歌謡をリエディットし、海外のリスナーに向けて丁寧に紹介し直すことで、単なる「バズった曲」で終わらせない、ジャンルとしての再評価を後押ししました。Spotify&CINRAのKompassの記事によれば、竹内まりや「プラスティック・ラブ」はオリジナル・再編集版を合わせてSpotify上で9,000万回以上再生されており、大貫妙子「4:00 A.M.」に至っては1億回再生を突破しているといいます。40年前の日本のポップスが、ストリーミング時代になって新しいリスナーを獲得し続けているのは、なかなか感慨深い現象です。

そして、シティポップから派生したフューチャーファンクは、電子音楽の制作技法という点でも面白いつながりを持っています。サンプルをチョップして四つ打ちのビートに乗せ直すという作り方は、ハウスミュージックのトラックメイクの発想そのものです。ハウスの成り立ちについては以下の記事で詳しく解説しているので、電子音楽側からシティポップを聴き直したい人はあわせて読んでみてください。

ハウスミュージックって結局何なの?シカゴの倉庫から生まれた名盤とあわせて解説

シティポップっぽい音を作りたい人へ軽いヒント

ここまで読んで「自分でも作ってみたい」と思った人向けに、ごく軽くヒントを置いておきます。

  • コード進行はジャズ理論を少しだけかじってみる:ダイアトニックコードに7th・9thを足すだけでも、一気にそれらしい響きに近づきます
  • ベースは”動かす”意識で:ルート音を単調に刻むのではなく、経過音を挟みながら旋律的に動かすと、フュージョン特有の浮遊感が出ます
  • ギターのカッティングは軽やかに:ミュートを効かせた16分のカッティングは、シティポップサウンドの疾走感を支える重要な要素です
  • コーラス・リバーブは薄く上品に:分厚く重ねすぎず、あくまで質感を整える程度に留めるのがポイントです。空間系の使い分けに迷ったら、このあたりの基礎から見直してみるのもおすすめです
  • 装飾を足しすぎない:主役はあくまでコードとメロディ。楽器を足すよりも、少ない音数でどれだけ洒落た響きを作れるかを意識すると、それらしさに近づきます

もっと作り込みたくなったら、この辺りは別記事でさらに掘り下げる予定なので、まずは「テンションコード+動くベース+軽やかなカッティング」の三点セットだけ押さえておけばOKです。

まとめ

シティポップは、日本の高度経済成長からバブル前夜にかけての「豊かさ」と「都会への憧れ」を、AORやソウル、フュージョンのエッセンスを借りながら音にしたジャンルです。山下達郎『FOR YOU』、竹内まりや『VARIETY』、大瀧詠一『A LONG VACATION』、杏里『Timely!!』——今回紹介した名盤はどれも、当時のスタジオミュージシャンたちの技術と美意識が惜しみなく注ぎ込まれた作品ばかりです。

そして2017年、忘れられかけていたこれらの音楽は、YouTubeのアルゴリズムという偶然の入り口から、海を越えて新しい世代のリスナーの元に届きました。「プラスティック・ラブ」から入った人も、フューチャーファンクのリミックスから入った人も、たどり着く先は同じ——40年前の日本が鳴らしていた、洗練された都会のサウンドです。気になった一枚から、ぜひ通しで聴いてみてください。

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